LPレコードを最大限に生かす方法(その4) トーンアームの調整方法 | 中川 伸 |
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カートリッジにとっての理想は、ボディーは振動せず、カンチレバーのみが動く状態です。こうすれば、溝の波形が正確にピックアップされるはずです。つまり、カッティングマシンにカートリッジを取り付けるような感じです。しかし、レコードには反りや偏芯があります。そこで、コストや作りやすさなどを考慮すると、一般的な有限長アームになってしまいます。
有限長アームに付きまとうトラッキングエラーを少なくするため、オフセット角度と、オーバーハングを設けます。こうすることによって、外周から内周へ間の2点にてトラッキングエラーが0度になるので、全幅でのトラッキングエラーは最小にできます。これが一般的なトーンアームの基本原理です。
このオフセット角度を与えた副作用はインサイドフォースが発生するので、左右の針圧にアンバランスが発生することです。そのため、インサイドフォースキャンセラーなるものが取り付けられます。しかし、実際にはインサイドフォースキャンセラーを取り外してしまった方が音は良くなることがほとんどです。このメカニズムの複雑さが音質に悪影響を与えるのでしょう。針圧のアンバランスといっても、たかが10%くらいですから、その分だけ余計に針圧を加えれば良いので、私はインサイドフォースを気にしません。
アームの基本はカートリッジをしっかり支えることにありまが、アームにわざと曖昧さを作って、アームの共振から逃げるという考えもあります。そんな現物をいくつか見聴きしたこともありますが、動作がデリケートで安定性にも欠けるので、私の好みではなかったです。私は、シンプルで、がっちりしていながらも、重過ぎないアームが好きです。
さて、アームには水平軸と垂直軸がありますが、長年使っているとガタがでてきます。すると、音もくっきりした感じが失せてきます。そこで、軸を再調整すると、くっきりとした鮮やかさが蘇ります。ここではその調整方法のご紹介です。
写真左上はアームベースの取り付けですが木ねじで止めるのではなく、ボルトとナットで止めています。この方が緩むことなく、しっかり止めることができます。私としては、アームボードはもっと堅い材質にしたいところです。レコードをトレースしていると、アームは引っ張られるので、写真のようにアームベースの取り付けネジは後ろ側から押すようにして、引っ張りに強くします。
先ずは垂直軸の調整ですが、ほとんどのアームの構造は、ボールベアリングをピボットで押していて、それをダブルナットで固定しているものが多いです。そこでこの場合は、写真中央上のように先端を尖らせたラジオペンチで緩め、ピボットになっている真ん中のネジを写真左下のようにマイナスドライバでガタの無い様に調整します。ガタはやや強めに押したり引いたり捻ったりすることで分かります。水平軸は写真中央下にあるリング状のネジを大きなマイナスドライバで回して、ガタの無い様に調整します。強く締めるとガタは無くなるのですが、動作感度が低下し、動きにくくなってしまいます。
その確認をするには、写真右のようにして、アームを左右や前後に揺らし、その動きを見て見当をつけます。私はほんの少し強い目に合わせるようにしています。
アームに瞬間でも大きな力が加わってしまうと、ピボットにベアリング玉の数の凹みができてしまいます。すると角度によって、ガタガタになったり、重くなったりするので、アーム本来の性能はいくら見た目が綺麗であっても、もう出せません。こういった衝撃からピボットを守るため、垂直軸にゴムのクッションを使ったものもありますが、私は音が鈍るので取り外します。凹んだピボットは削り直さなくてはなりません。アームの内部電線もモガミ電線の細い同軸電線に入れ替えるようにしています。これらの作業は結構難しいので、またの機会ということにいたします。